2018年4月29日日曜日
【二五五文字書評】ライン/村上龍
もう20年前の作品になるのですね。一九九〇年台の遣る瀬ない空気感を、巧く写し取った傑作だと思う。十八人の主人公が順にすれ違い、主体が移り、物語が繋がっていく。実験的な手法だが、総体的な目標を失い個に分断された社会を、巧く描きだしている。さて、自分を自分足らしめているものは他者の存在との観点に立てば、「わたしには他人というものがいない」と語るユウコだけが物語の中で異質だ。自己同一性が無いユウコとの対比によって、他の登場人物が抱える寂しさが際立つという構造だろうか。ユウコの持つ能力と相まって、若干の消化不良。
2016年3月26日土曜日
【二五五文字書評】オールド・テロリスト/村上龍
これは良い村上龍。やはり村上龍は、実社会の延長線上にある物語が良い。本当に起こりそうな、リアルな虚構が良い。実社会を描いても、かけ離れた社会を描いても、語りたい事が先にきて、物語の質が落ちる気がする。老人達は浮世離れした印象だけど、主人公のダメっぷりはリアルで心に迫る。この主人公『希望の国のエクソダス』の関口だよね。こんなに落ちぶれていようとは。ラスト近くでもたついたけど、全体的に熱量の高い村上龍らしい作品だった。最近の作品を読んで「もう村上龍も変わっちゃったのかな」なんて思ったけど、そんな事はなかった!
2016年3月21日月曜日
【二五五文字書評】歌うクジラ 下/村上龍
どうした村上龍。こんな予定調和へ、物語を導く作家じゃないはずだ。上巻は実験的でもあり、読みにくいが熱量は高かった。下巻の前半も、それなりの熱量を保っていた。でも、後半は駄目だ。登場人物が主題を語るのは目をつぶるとしても、説明ではなくもっと巧くやってほしかった。物語を、物語として続けて欲しかった。閉塞感とその打破を書き続けてきた村上龍らしからぬ着地に不満を感じるのは、俺が氏のファンだからだろうか。しかし村上龍も「生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ」なんて事を、ストレートに書くようになったのだね。
2016年3月16日水曜日
【二五五文字書評】歌うクジラ 上/村上龍
表題から勝手にちょっとオシャレな海洋アドベンチャーを想像していたけど、エログロ詰め込んで駆け抜けるいつもの村上龍だった。いや、今回エロ成分は控え目か。コインロッカー・ベイビーズの系譜に連なる作品ですよね。相変わらず、サブカル的な組み立てが巧いです。丁寧に作り込まれた近未来の舞台に踊る登場人物たち、言語、想像、意思……SF的展開に埋め込まれた主題は、コニュニケーションの問題か。物語の流れ着く先が全くもって予想できないけど、村上龍の事だからきっと血みどろロマンチック結末になるのではなかろうか。下巻に期待です。
2013年7月27日土曜日
【二五五文字書評】トパーズ/村上龍
初期の村上龍を読むといつもある種の無責任さや軽薄さの様なものを感じてしまうのだけれど、それは龍作品の味だと思うし八十年代の空気を巧く写し取っているようにも思う。SM嬢を主人公とした短編はどれも幻想的で美しいのだけれど、軽薄な時代を不器用に生きる女性たちの必死な姿は息苦しいほどに悲しくて切ない。それ故にそっと添えられた一粒の希望の種が際立って輝くし、小さな輝きをもってエログロで塗りつぶした物語をロマンチックにまとめ上げてしまう手腕はさすがだと感じる。やはり村上龍は天才だ。あの頃の龍は、本当にすごかった……。
2013年1月10日木曜日
【二五五文字書評】昭和歌謡大全集 (集英社文庫)/村上龍
週刊誌連載の村上作品は、総じて酷い。調子に乗りすぎて雑だ。しかしその酷さがまた、面白さの源泉だったりするんだけど。若者とオバサンの血みどろ報復合戦を、昭和歌謡にのせて描く……ほら、設定からしてすでに酷い。報復はどんどんエスカレートして、ついには【自主規制】なんて事になるのだから、ストリーだって調子に乗っていて雑だ。でも、社会に適合できない登場人物たちが、報復の中で社会性や生きる楽しみを見いだしたりして……文学的な仕事も盛り込んでいるあたりはさすが。でも、最後には全部ブッ壊しちゃう辺りも、さすがと言うべき?
2012年12月26日水曜日
【二五五文字書評】半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)/村上龍
よくもこの分量を破綻せずに最後まで描ききったものだと、感心することしきり。章によって北朝鮮、日本政府、イシハラグループなど視点を変えて語られるが、振り返ってみれば全ては結末の必然性を高めるため、絶妙な位置に配置されていたように感じる。シミュレート系の村上作品では、「問題意識を持て」と説教じみた主題が示される事が多いのだけれど、本作では集団に馴染めない少年たちを通じて描かれる「個や国の自立」の方が主題ではないかと思う。血みどろの結末を迎えてなお、ロマンチックな雰囲気を漂わせて終わる辺り、さすがは村上龍です。
2012年10月11日木曜日
【二五五文字書評】半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫) /村上龍
愛と幻想のファシズム、五分後の世界、ヒュウガ・ウイルス、希望の国のエクソダス……この系譜に並ぶ作品。村上龍の近未来シミュレーション作は、抜群に面白いよね。純文学作家なのに、エンタメやサブカル手法の使い方が巧い。なんだろう、この『本当に起こりそう』感は。日本の凋落も、有事の際の政府の対応の不味さも、本当に起こるかもしれないと思わせるだけのリアリティーをもって描かれている。世界観はガチガチに固めてあるけど、その上で展開される物語には、ヒロイックでロマンチックな展開が待っている予感もあるし、これは下巻が楽しみ。
2012年9月8日土曜日
舞城王太郎の芥川賞落選後日談。村上龍が「なんで短編集をノミネートすんだよ!」と怒ってた件。
文藝春秋九月号を、やっと読むことができた。第一四七回芥川賞発表が特集されている号だ。
この号には芥川賞受賞作が全文掲載されているのだが、実は受賞作の掲載には興味がなく、“芥川賞の選評”こそが目当てであったりするのだ。
ここで誤解なき様に言っておくのだが、受賞作の掲載に興味が無いというのは作品に興味が無いという意味ではなく、単行本で読むので文藝春秋で読む必要性を感じないという意味で興味が無いだけである。
……と言い訳をしたところで、本題に入ろう。
2012年4月24日火曜日
【二五五文字書評】愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)/村上龍
日本に台頭する独裁勢力を軸に進行するが、もちろんファシズムが主題ではない。成熟し複雑化した社会で、システムに隷属し依存する事によって生の実感が得られなくなっている。この閉塞感の打破こそが主題であろうし、その手法としてファシズムが描かれる。弱肉強食の淘汰に導く過激な物語ではあるが、込められたメッセージはロマンチック。その照れ隠しが、秀逸なタイトルを生んだのだろうか。作中にも「ギリシャ悲劇」との言及があるが、構成的には「オディプス王」に還元される。父なる米国を殺し、母なる日本を娶る……やっぱりロマンチックだ。
2012年4月20日金曜日
【二五五文字書評】愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫) /村上龍
圧倒的カリスマ……とか言っちゃうと、なんか安っぽいか。ベタな表現を使うなら、トウジの言動には「しびれる」。いつも斜に構えて一歩引いて捉える俺でも、何故かしびれてしまう。やっぱりヒーローやカリスマという存在には、それだけの力があるということか。ついでに言えば、未来を予見したかのような内容……三十年前のバブル期にこの小説を生み出した、村上龍の才能にもしびれるわ。エヴァンゲリオンをはじめ、サブカルに与えた影響も多大。下巻はきっとアレな事になってると思うんだけど、とても楽しみです。ちゃんとした感想は、下巻で……。
2012年3月31日土曜日
【二五五文字書評】恋はいつも未知なもの (角川文庫) /村上龍
ジャズのスタンダードナンバーにのせて綴られる、幻のジャズバーをめぐる 40編のショートショート。村上龍ファンだけど、面白くないんじゃないかと思って、今日まで読んでいなかった。古本屋で単行本をみつけたので、読む事にした。面白くはあったけど、村上龍のエッセイから感じるような踏み込みの浅さばかりが目立ってしまった印象。40代、50代あたりの男性には、シンパシーをもって迎え入れられるのかも。ライトに読み下す事ができる事、そしてジャズを知っている者にとっては解釈の妙を楽しむ事ができるあたりが魅力じゃないでしょうか。
2012年3月16日金曜日
【二五五文字書評】心はあなたのもとに/村上龍
村上龍っぽくないけど、このロマンチシズムはやはり村上龍か。恋人が死んじゃう話なんて、照れくさくて読めないかも……なんて思ったけど、意外とすんなり読めた。淡々とした視点と語り口が、わたし的には心地良いのですよ。ケンジの何でも理で割りきろうとする姿勢が、私が物語に入り込む事を阻害してたかも。でもその辺りを差し引いても、淡く儚く綺麗な物語だと思いました。同じ恋人が死んじゃう話なら、舞城の「好き好き~」の方がいいかな。あっちは飛び道具だから、比べる事が間違ってるけど。某セカチューは読んでないので、比べようもない。
2012年3月6日火曜日
【二五五文字書評】最後の家族/村上龍
【ネタバレ有】村上龍らしからぬ清々しいい読後感。でも自立をもって救いとする辺りは、村上龍らしかも。あとがきに「誰かを救うことで自分も救われる、というような常識がこの社会に蔓延しているが、その弊害は大きい」とある。相手を救おうとする時点で、相手を対等な人間として見ていない……これが本作で重要な視点であろう。自立こそが身近な人の救いになるという事なのだが……やはり若干の疑問が残る。一方向ではなく、相対する論も盛り込んであれば、素直に納得できたかもしれない。話が出来過ぎてる感はあるけど、やっぱり巧いわ。村上龍。
2012年2月18日土曜日
【二五五文字書評】イビサ (講談社文庫)/村上龍
個人的には、村上龍の最高傑作だと思う。東京、パリからイビサへと至る、ロードムビー的な物語……ではなくて、エロ、グロ、オカルト詰め込んで、圧倒的なパワーで駆け抜ける内観の物語。そして、ラストは衝撃的。村上龍の作品を読んでいると、読み流せる内容ではないのに思考停止してしまい、ただただ急いで読み進めてしまうような事がある。この作品の場合は、その傾向が顕著。あとがきで「破滅的ストーリー」と紹介されているが、そのような印象は残らなかった。この作品に限らず、村上龍のあとがきは、額面通りに受け取ってはいけない気がする。
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