2012年4月24日火曜日

【二五五文字書評】愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)/村上龍


日本に台頭する独裁勢力を軸に進行するが、もちろんファシズムが主題ではない。成熟し複雑化した社会で、システムに隷属し依存する事によって生の実感が得られなくなっている。この閉塞感の打破こそが主題であろうし、その手法としてファシズムが描かれる。弱肉強食の淘汰に導く過激な物語ではあるが、込められたメッセージはロマンチック。その照れ隠しが、秀逸なタイトルを生んだのだろうか。作中にも「ギリシャ悲劇」との言及があるが、構成的には「オディプス王」に還元される。父なる米国を殺し、母なる日本を娶る……やっぱりロマンチックだ。


以下、蛇足。


くだんの台詞。「母なる日本だ、オレは母を犯して、父を殺すんだよ……。」父というのはアメリカでしょうし、またアメリカに代表される旧来のシステムの事かもしれませんね。

【ネタバレ注意】連載時は先ずゼロの死が示されて、そこから回想する形で物語が始まったようです。(単行本にまとめる際、冒頭部は削除されました)つまりゼロの死は、最初から決められていた訳です、それでも俺的には、取って付けた感が否めません。死ななければならなかった理由が、今ひとつピンとこないんですよね。エンディングについても釈然としないんですが、サブカル的な手法に精通している村上龍ですから、最後はザ・セブンとの全面対決に集約しそうなものですが。無理に終わらせた感が感じられて、その点は残念でした。

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