2018年4月29日日曜日

【二五五文字書評】ライン/村上龍


もう20年前の作品になるのですね。一九九〇年台の遣る瀬ない空気感を、巧く写し取った傑作だと思う。十八人の主人公が順にすれ違い、主体が移り、物語が繋がっていく。実験的な手法だが、総体的な目標を失い個に分断された社会を、巧く描きだしている。さて、自分を自分足らしめているものは他者の存在との観点に立てば、「わたしには他人というものがいない」と語るユウコだけが物語の中で異質だ。自己同一性が無いユウコとの対比によって、他の登場人物が抱える寂しさが際立つという構造だろうか。ユウコの持つ能力と相まって、若干の消化不良。

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