2014年4月3日木曜日

【二五五文字書評】岬/中上健次


わたしの中の現代文学史は“村上龍以前”と“村上龍以後”に分かれ、中上健次は龍以前の最後の作家という位置に在る。龍以前には父権が生き、大きな家族が在り、地域の共同体が在った。この大いなるしがらみの拒絶または受容が文学の主題の一つであり、本作でもやはり血縁や路地の濃密なしがらみが描かれる。異腹の妹との交わりに、しがらみへの憎悪と愛情を投影した場面は見事。実父を拒絶し、血縁への破壊衝動を爆発させると同時に、しがらみを受容し自己同一性を確立した瞬間でもある。蛇足との感もあるが、三連作一作目のラストと捉えると最高。

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