2016年7月10日日曜日
【二五五文字書評】西の魔女が死んだ (新潮文庫) /梨木香歩
幼少期、山深い田舎で祖母と多くの時間を過ごした俺は、大きな共感をもって読み進めた。祖母は英国人ではなかったし、魔女の手ほどきもしてくれなかったけれど、本作と同様に大切なことをたくさん教えてくれた。作中の自然の描写も素敵だし、西の魔女の言動も素敵だ。まいが生きるチカラを身につけていく姿は、感動的ですらある。ラストの東の魔女に宛てたメッセージには、涙を禁じ得ない。人と違う感性を持っていると、生きにくいことも間々あるよね。そんな生きにくさを感じたことがある人に、ぜひとも手に取っていただきたい……そんな作品です。
「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」(「西の魔女が死んだ」より引用)
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