2012年3月1日木曜日

【二五五文字書評】暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)/舞城王太郎


作中の「ある種の真実は、嘘でしか語れないのだ」との言葉通り、虚構に満ちた物語。これだけ嘘を振り回して、何を語っているのかと言えば結局は愛。かけ離れた方向から語り尽くすものだから、余計に際立つというね。【以下ネタバレ】直接的に「ハンニバル」からの引用があるけど、他にも映画の引用と思われるパーツを散見する。手塚治虫「ブラック・ジャック」からのパーツ(腫れ物・メス)が紛れていた事には、ニヤリとした。四肢を失ってカタルシスを得るラストは、まるで村上龍の「イビサ」。俺の中で舞城は、村上龍の延長線上にあるのだが……。


以下、蛇足。

【ネタバレ注意】三章以降は、三郎の創作と知り再読。初読では、池の名前、橋本の死因、ユリオの表記など矛盾を感じながら、「だって舞城だし」と思考停止していた。再読して「二章以外すべてが虚構」という解釈にたどり着いた。いやもしかして「二章が虚構でそれ以外が現実なのか」とレクターのくだりで感じた。舞城恐るべしだ。由里緒は実在するけど、ユリオは創作とすれば切ない。ユリオとの愛を描き、奈津川家の愛を描き、自らの四肢を切り落として、三郎は本当にカタルシスを得ることができたのだろうか。もう一度読み直してもいいと思う作品。

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