2012年10月26日金曜日

【二五五文字書評】グロテスク〈下〉 (文春文庫)/桐野夏生


一人称語りは取調べに対する供述で、語り手が事件に関与していると思ったがミスリードだった。選良と娼婦の二面を持ち、挙句に絞殺された女性の心の歪が主題。歪を描くために用意された登場人物がまた、それぞれに歪を抱えている。個々の歪は誰だって抱える程度のものだが、お互いが不協和音を奏でながら更に大きな歪を織り成すよう絶妙な位置関係で配置されている。筆力の高さもさる事ながら、構成の巧さが際立つ作品。最後まで心の醜い部分ばかりが供されるが、読後感が悪くないのは意外。あのラストは、語り手にとって救いとなったのでしょうか。


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