2014年4月16日水曜日

【二五五文字書評】枯木灘/中上健次


路地のしがらみ、血のしがらみ。土方に没頭し、秋幸は石のように草のようにありたいと願う。秋幸の実父、その男浜村龍造。蝿の王と呼ばれ、三人の女性との間に子を儲ける。乱暴にまとめれば、父と子の葛藤の物語。愛情と憎悪が並び立つ複雑な人間関係が、熊野の風土と混ざり合い幻想的とも言える世界を産みだしている。作中では、虚実織り交ぜ様々な噂が飛び交う。噂に翻弄され、不安や嫉妬を掻き立てられ、愚行に走る人々の姿が印象的であった。この地では、噂と憶測が真実を形作る。故に土方に没頭する時だけ、秋幸はしがらみから開放されるのだ。

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