2013年7月30日火曜日

【二五五文字書評】こちらあみ子/今村夏子


遣る瀬ない思いで一杯だ。悲劇ともいうべき一連の出来事は、すべて悪意なき無邪気さが引き金になっているのだから。コミュニケーション不全を描いた作品は数あれど、本作は構成も表現も群を抜いて巧い。柔らかい文体に油断していると、毒が含まれているのだから侮れない。この巧さと侮れなさは併録されている『ピクニック』で更に顕著に現れ、ルミたちの悪意の詰まった無邪気さに『こちらあみ子』とは違った遣る瀬なさを感じる。両作とも入念に作り込まれた感があり、あざといまでに巧い。そしてわたしは、あざとい書き手が好きだ。次回作にも期待。

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