長逗留の仮住まい
短い書評がメインの、ノンジャンルブログ。
2018年5月30日水曜日
【二五五文字書評】影裏/沼田真佑
主人公が日浅に抱いているのは、やはり恋心なんですかね。とまぁ、初っ端からネタバレかましてますが、昔の恋人のエピソードを考え合わせると、そのような解釈に流れ着いてしまう。日浅が行方不明になった原因を、かの震災にもっていくのは好みではない。でも、私の好みはどうでもよく、間接的な被災、または被災者と関わりを持つ人々を描き出すのもまた小説の役割と捉えるのなら、静かな空気の中で巧く描かれている様に思う。心情描写など意図的に省かれているような部分もあり、描かない事で主題を浮かび上がらせる辺り、巧いなぁと唸ってしまう。
2018年4月29日日曜日
【二五五文字書評】ライン/村上龍
もう20年前の作品になるのですね。一九九〇年台の遣る瀬ない空気感を、巧く写し取った傑作だと思う。十八人の主人公が順にすれ違い、主体が移り、物語が繋がっていく。実験的な手法だが、総体的な目標を失い個に分断された社会を、巧く描きだしている。さて、自分を自分足らしめているものは他者の存在との観点に立てば、「わたしには他人というものがいない」と語るユウコだけが物語の中で異質だ。自己同一性が無いユウコとの対比によって、他の登場人物が抱える寂しさが際立つという構造だろうか。ユウコの持つ能力と相まって、若干の消化不良。
2016年8月14日日曜日
【二五五文字書評】不思議の国のグプタ―飛行機は、今日も遅れる/ ヒロ前田、清涼院流水
良くも悪くも、清涼院流水らしい小説。溢れんばかりのTOEIC愛は伝わってくるし、あるあるネタも面白いのだけれど、いかんせんプロットも表現も独りよがりな印象しか受けることができない。しかしながら、この自己満足的な雰囲気こそが御大の持ち味だろうし、この雰囲気を楽しむことができてこそ、御大のファンを名乗る事が許されるのであろう……と、まぁ、真面目に語るような作品でもないのですが。俺のTOEIC初挑戦は、とても残念な戦績。再戦に先立ち、本作を読んでみた。無機質に感じられたTOEICの世界に、血が通ったような印象。
2016年8月11日木曜日
【二五五文字書評】新潮 2016年 09 月号(Would You Please Just Stop Making Sense ?/舞城王太郎)
舞城王太郎「Would You Please Just Stop Making Sense ?」読了。スポンジシリーズ四作目。予言や暗示は他者からもたらされ、そこに意味を見出そうとしがちだけど、呪術的なチカラが働いていると思っていても実は偶然だったりするのだし、拘泥するのは逆に良くない結果を呼び込んでしまう……のかな? スポンジシリーズは作者の意図するところが読み取れず、いつもモヤモヤが残るのだけれど、もしかしたらシリーズが完結して初めて見えてくるテーマが在るのではないかと考えるのは、勘ぐり過ぎだろうか。
2016年7月10日日曜日
【二五五文字書評】西の魔女が死んだ (新潮文庫) /梨木香歩
幼少期、山深い田舎で祖母と多くの時間を過ごした俺は、大きな共感をもって読み進めた。祖母は英国人ではなかったし、魔女の手ほどきもしてくれなかったけれど、本作と同様に大切なことをたくさん教えてくれた。作中の自然の描写も素敵だし、西の魔女の言動も素敵だ。まいが生きるチカラを身につけていく姿は、感動的ですらある。ラストの東の魔女に宛てたメッセージには、涙を禁じ得ない。人と違う感性を持っていると、生きにくいことも間々あるよね。そんな生きにくさを感じたことがある人に、ぜひとも手に取っていただきたい……そんな作品です。
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【ネタバレ注意!】 最終章の後半まで読み進んだあなたは、「短編ホラー三本ならべただけ?」とつぶやきため息をつく。”舞城史上最強長編”との煽りに期待した分、落胆も大きいのだろう。だけど光の道の再登場を目にした瞬間、ソファーに座り直し、今までの倍の早さでページをめくり始める。最後...
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文藝春秋九月号を、やっと読むことができた。第一四七回芥川賞発表が特集されている号だ。 この号には芥川賞受賞作が全文掲載されているのだが、実は受賞作の掲載には興味がなく、“芥川賞の選評”こそが目当てであったりするのだ。 ここで誤解なき様に言っておくのだが、受賞作の掲載に興味...
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舞城王太郎『Shit, My Brain Is Dead.』読了。「初期の舞城が帰ってきた!」と一部で噂のスポンジシリーズ。噂に違わぬ作風が、何だか懐かしい。虚構に満ちた物語を圧を高めた文章で味付けして、汚い言葉をまぶしてカラリと揚げた本作が指し示す主題とは……うーん解らん...
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舞城王太郎に松小説なんて書かせたらきっと主人公は「首だけが六つで、肩から下の全てを共有する六つ子」として描かれるだろうし、何それ怖いなんて怯えながら『九十九十九松』を読んでみたんだけど全くそんな事はなくて、松要素を絡めつつ見立て殺人で殺される六人のメタ探偵九十九十九を描いて...
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これは、ホラーなんだろうか。もっとこう幻想的で叙情的な……あえて言うなら、エログロ・スプラッタ・ファンタジー!? てな感じで、ジャンルすらよく判らない位に、よくできた物語だと思う。時代は戦中のようだけど、民話や神話の如き世界観で、何処に連れて行かれるのか、何処まで振り回され...